オリンピック・パラリンピックで馬術競技場として使用されるのが、世田谷区にある《JRA馬事公苑》。
世界各国からトップクラスの人馬が集まる夢の舞台です。

前回1964年の東京オリンピックでは馬場馬術競技が行われ、参加人馬の拠点となったJRA馬事公苑は
全国大会をはじめとする数々の大会が行われた歴史ある競技場で、長年にわたって日本の馬術選手の憧れの場所でした。
その施設が2017年にスタートした全面的な改修工事を経て、ついに生まれ変わりました。
そこで、今はオリンピック・パラリンピックのためのスペシャル仕様になっているJRA馬事公苑を、私と一緒に探索しちゃいましょう!


国際的にもトップレベル!
オリンピック仕様にリニューアル

1940年9月に日本で初めての総合的な馬事施設として開苑して以来、馬術競技の拠点として全日本選手権をはじめとする大きな競技会が行われてきたJRA馬事公苑。私もジュニアライダーだったころ、馬事公苑は憧れの舞台でした。初めてここで馬場馬術の演技をした時の嬉しさと緊張感は今も鮮明に覚えています。
世田谷区の住宅街の中にありながらも、馬事公苑の敷地面積は約19万平方メートル。なんと、東京ドームが4つも入る広さなんです!

オリンピック・パラリンピックでは、チケットチェックなどが行われる予定のエントランスのエリアを通り、正面の階段やエレベーターを使って2階へ上がります。すると一気に視界が開けて目に入ってくるのが、競技会場となるメインアリーナ。100m×80mの広さで、1万人近い観客を収容できるスタンドに囲まれています。

真っ白に輝くメインアリーナ

このメインアリーナを目の前にして驚いたのは、馬場が真っ白に輝いて見えること。その秘密は、馬場の素材にあります。一般的な馬場は砂だけが使われていますが、この馬事公苑の馬場はオランダから輸入された白砂に細かく裁断されたフェルト生地が混ぜ込まれていて、馬の脚にも優しいのが特徴です。私も歩かせていただいたのですが、とても柔らかい感触に驚きました。

また、滑りにくくしっかりとグリップが効くので、この馬場で競技をした選手にも「馬の能力を引き出してくれて、パフォーマンスも向上する馬場」と好評だったそうですよ。

メインアリーナは、オリンピックの馬場馬術と障害馬術(総合馬術の馬場と障害も行われます)、そしてパラリンピックの舞台となります。ほとんどの競技は夕方から夜にかけて行われる予定で、夜にはアリーナの四隅にあるナイター照明が点灯します。日本では本格的なナイター競技はないので、どんな雰囲気になるのか楽しみです。

アリーナの角にある、
大きなガラス窓の建物は?

ところで、メインアリーナの南側の角のところに大きなガラス窓の、比較的小ぶりな建物が見えます。それではここで問題。一体この建物はなんでしょうか?……皆さんわかりますか。

正解はこちら。

障害馬術競技の時にジャッジ(審判員)の方が入る審判棟なんです。馬場の隅々まで競技の様子がしっかりと見えるように、アリーナに対して斜め向きに建てられています。ジャッジはこの建物の2階から競技の様子をしっかりとチェックしているというわけですね。

そして、審判棟の屋根のすぐ下に金色の鐘が付けられているのがわかりますか?可愛いですよね。中にいるジャッジの方がロープを引くと、鐘がカランカランと鳴る仕組みで、競技開始の合図など、競技の大事なシーンで鳴らされます。実は、撮影の際に私も許可をいただいてこの鐘を鳴らすことができたんです!めったにできない経験だったので感激しました。

悪天候でも安心!インドアアリーナ

メインアリーナの隣にはインドアアリーナがあります。馬場の素材はメインアリーナと同じで、屋根に覆われているので天候に左右されることがありません。
ここは、オリンピック・パラリンピックではトレーニングや準備運動に使われるそうですが、去年の秋の全日本馬場馬術大会ではこのインドアアリーナでも競技が行われました。

メインアリーナとインドアアリーナ、そしてこのあとご紹介する厩舎エリアは、大会が行われる際の人馬の動線がしっかり考えられていて、コンパクトに配置されているのも特徴です。

まるでヨーロッパにいるよう!
おしゃれな厩舎エリア

厩舎エリアも大きく生まれ変わりました。
用意された馬房の数は300以上。厩舎の建物にはヨーロッパから輸入された資材が使われています。落ち着いた色調のレンガに木目を活かしたおしゃれな雰囲気の扉。馬房の窓からひょっこりと顔を出した馬たちが並んでリラックスしている様子は、まるでヨーロッパの厩舎がそのままここに再現されたようですね!

馬房(ばぼう)は日本の夏の暑さにそなえて天井を高くするなど空気の循環が考えられた造りになっていて、冷房も完備。万全の暑さ対策がとられています。
オリンピックの時は、競技種目ごとに綿密な計画のもと馬の入れ替えが行われます。
こんな快適な馬房なら、世界のトップクラスの馬も安心して過ごせるのではないでしょうか。

厩舎エリアには馬専用の診療所もあるんですよ。大会期間中はここに獣医さんが常駐するので、馬が突然体調を崩すといったアクシデントにもすぐに対応してもらえて安心ですね。
ほかにも馬用のミストシャワーが用意されるなど、出場馬が良いコンディションを保てるように細かな部分にも配慮されています。本当に馬のことを第一に考えて作られた設備だなぁ、と感動しました。

クロスカントリーのトレーニングもばっちり!
芝生エリアと走路

オリンピック総合馬術のクロスカントリー競技は、東京湾エリアに特設される《海の森クロスカントリーコース》に移動して行われるのですが、事前のトレーニングを行うのはここ馬事公苑のトレーニングエリア。

そんな馬たちが使えるように、競馬場のダートコースのような1周およそ900mの走路や、クロスカントリーの固定障害や池が設置された芝生エリアもあります。


武蔵野自然林を活かした
フォレストエリア

馬事公苑では武蔵野自然林があるエリアを《フォレストベース》と名付け、整備を進めてきました。
自然林のなかには木でできた遊歩道があり、ゆったりとした勾配のある歩道を歩けば、まるで森の中を散歩しているような爽やかな気分になります。

馬事公苑リニューアルに向けては苑内の樹木を伐採する必要がありました。そこで《木づかいプロジェクト》が立ち上げられ、樹木をムダにしないで活用するための取り組みが行われたそうです。例えば、苑内の各エリアに設けられた丸太のベンチとして生まれ変わったり、総合馬術のクロスカントリー用障害物になったり、伐採樹木を粉砕してから人工樹脂と混ぜて作ったリサイクルウッドがウッドデッキに活用されたりと、多彩な使われ方をしています。
まさに環境への配慮が求められる今の時代にぴったりの取り組みですね。

《フォレストテラス》には、
子どもたちが遊べるツリーハウスも。

遊歩道には人々が集まれるスペースが2ヵ所設けられ、それぞれ《フォレストテラス》、《リーフテラス》という名前がついています。なかでもフォレストテラスには、どんぐりの形をしたツリーハウスがあり、木の温もりを感じながら子どもたちが遊べる場所となっています。

このツリーテラスは、改修工事のために伐採された自然林の木を使って手作業で組み上げられたそうで、とてもかわいらしいんです。もちろん私も中に入りました(笑)。
秘密基地みたいでワクワクしました!

天井にはステンドグラスがはめられていて、模様はもちろん馬!
羽が生えた4頭の馬がモチーフで、まるで飛ぶように、軽やかに走る馬にぴったりなイメージ。本当に素敵ですね。

レガシーが残る《オリンピックテラス》には
いたるところに馬の気配。

また、《オリンピックテラス》と名付けられた一角には、1964年の東京オリンピックを記念した石碑があります。そこに刻まれた言葉を見ていると、まさに時を超えてオリンピック・レガシーが受け継がれていることを実感します。

また、見てください!フォレストエリアに数ヵ所ある水飲み場も、馬がモチーフになっているんです。凝っていて、本当にかわいいです。こんな水飲み場なら、子供たちも楽しく水を飲んだり手を洗ったりできそうですね。

JRA馬事公苑は都会にある馬とふれあえる貴重な施設としても長く親しまれてきました。オリンピック・パラリンピックの後には仮設施設を撤去して恒久的な施設として再び生まれ変わるそうです。
数年後には、オリンピック・レガシーを引き継ぎつつ、緑のあふれる公苑として一般公開されるそうなので、皆さんもぜひ訪れてみてくださいね。


日本の馬術の中心地にふさわしい、
建物のしつらえ

メインアリーナを望むメインオフィスは3階建ての施設で、あちこちに日本らしさがあふれています。3階は広~いラウンジになっており、ここから競技を観戦できたら優雅な気分になれそうです。

建物の外装には、日本独自の製法を用いたレンガが使われていて、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
入口を入ってすぐのところには、1932年のロサンゼルスオリンピックの金メダリスト、西竹一選手の愛馬ウラヌスが疾走する様子がレリーフになっていて大迫力です。

壁も手が込んでいます。日本独特の技術を継承し、発展させている左官チームが手掛けた、柿色の左官壁の風合いと色合いがとても素敵なんです。
他にも、一つ一つ手で組み上げられた組子天井、手漉きの和紙を絶妙に取り入れた壁面などがあって、豪華でありながら落ち着きのある、日本らしい美しさが表現された素敵な空間でした。馬術競技会場でも、海外の人たちに日本らしさを知ってもらえたら良いですね。


世界トップレベルの人馬が東京に集結

《馬・緑・人の呼応》をコンセプトとして新たに生まれ変わったJRA馬事公苑。苑内を散策しながら、そのポイントをご紹介しました。
実は昨秋、ここで行われたイベントで馬に乗せていただいたんです。とっても乗りやすかったですし、オリンピック選手より先に大会会場で乗っちゃった
んですね(笑)。とっても光栄です。いつかまたここで騎乗できたらいいなぁ、と思っています。

皆さんもぜひ、オリンピック・パラリンピック大会期間中は現地(チケットを持っている人は!)、あるいはテレビで世界のトップレベルの馬術競技をたっぷりと楽しんでもらえるとうれしいです。世界のトップクラスの人馬がここ東京に集まるオリンピックでどんな素晴らしい演技を見ることができるのか、私も今からワクワクが止まりません。

そして大会が終わったあと、ここJRA馬事公苑は日本の馬術の要の場所として、そして都心にある緑あふれるスポットとして、多くの人に親しまれることは間違いありません。皆さんもぜひ遊びに来てくださいね。